一定の重大な犯罪についての刑事事件について,有権者の中から選ばれた裁判員が,裁判官とともに裁判の審理に参加する裁判員制度が2009年に始まってから9年が経過しました。
これまでに裁判員や補充裁判員を経験した人数は,2018年3月時点で,合計約8万3000人もの人数に上ります。
最高裁によると,裁判員候補者は,選挙人名簿から無作為に選出され,年間約12万~13万人が選ばれています。そして,その中から,裁判員として選ばれた人に対し,実際に裁判所での選任手続きに来るようにとの通知が送られることになります。
しかし,昨今,裁判員に選ばれても,仕事などを理由に裁判員を辞退する人が増加していることが問題となっているそうです。
最高裁判所の発表によれば,裁判員制度が始まった2009年の辞退者の割合は,約53%だったのに対し,2017年には66%にも増加しています。
裁判員に選ばれても,裁判員を辞退する人の多くは,「重要な仕事がある」ことを理由としているようです。
そして,その背景には,裁判員裁判の長期化がその要因となっているとも指摘されています。
実際,裁判員裁判が開始された2009年には,第1回公判期日から判決までの期間の平均日数は3.7日であったのに比較して,2017年では,10.6日となっており,約3倍近くも審理期間が延びているというデータがあります。
裁判期間中ほぼ一日中拘束される裁判員としては,裁判員裁判の審理期間が長くなればなるほど,その負担が大きくなると言えるでしょう。
ちなみに,今年4月に神戸地裁姫路支部で開かれた殺人事件では,何と過去最長の207日間もの裁判期間が予定され,約8割の裁判員候補者が辞退したとも報道されています。
新潟地裁でも,裁判員候補者の辞退率は増加しており,2017年には,約70%の人が裁判員候補者になっても辞退しているようです。
裁判員裁判は,そもそも,国民の司法参加により,市民が持つ日常感覚を裁判に反映し,司法に対する国民の理解の増進とその信頼向上を図ることを目的としています。
にもかかわらず,仕事を持つ人は事実上裁判員裁判に参加できず,時間的に余裕のある人しか裁判に参加できないという制度では,それ自体に問題があるといわざるを得ないのではないでしょうか。
最高裁判所は,裁判員裁判の審理が長期化していることについて,余裕のある審理日程を確保し,評議にも時間をかけていることが,裁判期間長期化の原因だと説明しています。
今後は,充実した審理と参加する裁判員の負担のバランスをどうとるかが課題になってくるのではないでしょうか。
個人的には,裁判員として刑事裁判に参加するのは,一生に一回あるかないかの貴重な機会だと思います。裁判員の仕事に必要な範囲で仕事の休みを取ることは,法律でも認められていますので(労働基準法7条),裁判員に選ばれた方は,是非裁判員としてご協力いただきたいと思います。
出身地 大阪府豊中市
略歴 早稲田大学法学部卒
神奈川大学法科大学院修了
最高裁判所司法研修所修了後,弁護士登録
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