「結婚するときに夫婦別姓を選べない戸籍法の規定は憲法に違反する」として旧姓を使って生活している方が国を訴えた裁判で、3月25日に、東京地方裁判所は、戸籍法の規定は憲法に違反しないという判断を示し、訴えを退けました。「夫婦別姓訴訟」と注目を集めました。
現在の法律では、日本人同士が結婚する場合、民法750条が適用され、夫婦はどちらかの姓を名乗ることとされています。
他方で、日本人と外国人とが結婚する場合、民法750条が適用されずに、基本的には夫婦別姓となります。同じ氏を称したいと考えた場合には、日本人が戸籍法にもとづく届出をすれば、外国人の配偶者の氏を『戸籍法上の氏』として称することができます(戸籍法107条2項)。
このように、日本人が日本人と結婚する場合と外国人と結婚する場合とで取扱いが異なることは、法の不備ではないか、この不備は憲法24条等に反するのではないか、という主張がなされたようです。
また、結婚にあたって姓を変更する場合、様々な問題が生じます。例えば、銀行口座の名義変更、パスポートの変更等が必要となります。非常に多岐にわたりますし、煩雑です。
さらには、結婚や離婚を機に姓が変われば、職場や知人などへのお知らせ、報告なども行う必要もでてきます。わざわざ自身のプライベートな事柄を公にしなければならないわけです。
夫婦同姓の規定については、これまで何度も裁判でその合憲性が争われてきました。
一番新しい最高裁の判決は、平成27年12月16日判決があります。
結論としては、憲法に反しないとうことで、請求を退けました。理由としては、氏が家族という社会の自然かつ基礎的な集団単位の呼称、家族を構成する一員であることを公示し識別する機能があり、それが合理的だということに論拠があります。
しかし、この最高裁判決で注目すべきは、反対意見を述べる裁判官が3人いたことです。
最高裁の多数意見は、通称を使うこともできるから、わざわざ法律で別姓にしなくてもあまり不都合はないという考えですが、しかし、そもそも通称を使わなきゃいけない事態がおかしいでしょという指摘がなされています。
また、「夫婦が同氏であることが合理性があるかどうか」ではなく、「夫婦同氏に例外を許さないことに合理性があるのか」というのが問題だという指摘がなされています。夫婦別姓にした場合によく指摘される家族の一体性が失われるとか、子への悪影響といった点については、「同氏でない婚姻をした夫婦は破綻しやすくなる、あるいは、夫婦間の子の生育がうまくいかなくなるという根拠はない」と鋭い反対意見が出されていました。
東京地方裁判所の判決は、夫婦別姓を認めていないとしても憲法に違反しない、として請求を退けました。
本原稿執筆時では判決全文がまだ文章で公表されていないのですが、戸籍法の規定については、「結婚後の夫婦別姓を認めれば法律上の名字が2つに分かれ、そのような事態は現行法で予定されていない。夫婦別姓を認めないことには制度上、合理性がある」と指摘したとのことです。
おおまかな考え方としては、これまでの最高裁判所の考え方と変わらないと思われます。
弁護士は職務上の姓として、届出をすれば、旧姓を使用することが可能です。また、裁判官などの国家公務員は2017年から旧姓の使用が可能になったとのことです。
旧姓を仕事で使いたいという要望は、多くあるのだろうと思います。
普通に考えて、仕事でお会いする方は姓で呼ぶことが多いですから、姓が変わるというのは重要な問題ですよね。
イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ合衆国(州によるとのこと)、中国、韓国でも別姓とすることが可能とのことです。
おそらく、「夫婦が同じ名字であることは当然」と考えている人は多いと思います。
しかし、日本も明治時代の途中までは夫婦別姓だった(当時と現在とでは結婚の考え方や女性の社会的な地位が違いますが)わけで、「夫婦同姓は日本古来の制度」というわけではありません。
さらに、内閣府の調査でも、42.5%の人が、選択的夫婦別姓制度の導入に関する法律の改正に賛成しているとのこと。どんどん国民の意識も変わってきているのではないかと思います。
家族や夫婦の在り方については、いろんな考え方があると思います。夫婦が同じ姓であるべきだと考える人はいらっしゃると思いますし、それ自体なんら否定しようとは思いません、一つの考え方です。
しかし、そうではない考え方をあえて排除する必要はないわけです。「夫婦別姓を認めない」という結論をとる場合は、いろんな考え方、生き方をあえて認めないのはなぜなのか、ということが検討されるべきです。
今回の夫婦別姓訴訟の原告の方々は控訴審、上告審と戦っていくものと思われますが、時代に合わせ、立法による解決がなされることが良いのではないでしょうか。
【参照条文~民法】
(夫婦の氏) 第七百五十条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。 (離婚による復氏等) 第七百六十七条 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。 2 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から三箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。 |
【参照条文~戸籍法】
第十九条 婚姻又は養子縁組によつて氏を改めた者が、離婚、離縁又は婚姻若しくは縁組の取消によつて、婚姻又は縁組前の氏に復するときは、婚姻又は縁組前の戸籍に入る。但し、その戸籍が既に除かれているとき、又はその者が新戸籍編製の申出をしたときは、新戸籍を編製する。 ○2 前項の規定は、民法第七百五十一条第一項の規定によつて婚姻前の氏に復する場合及び同法第七百九十一条第四項の規定によつて従前の氏に復する場合にこれを準用する。 ○3 民法第七百六十七条第二項(同法第七百四十九条及び第七百七十一条において準用する場合を含む。)又は同法第八百十六条第二項(同法第八百八条第二項において準用する場合を含む。)の規定によつて離婚若しくは婚姻の取消し又は離縁若しくは縁組の取消しの際に称していた氏を称する旨の届出があつた場合において、その届出をした者を筆頭に記載した戸籍が編製されていないとき、又はその者を筆頭に記載した戸籍に在る者が他にあるときは、その届出をした者について新戸籍を編製する。
第百七条 やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。 ○2 外国人と婚姻をした者がその氏を配偶者の称している氏に変更しようとするときは、その者は、その婚姻の日から六箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。 ○3 前項の規定によつて氏を変更した者が離婚、婚姻の取消し又は配偶者の死亡の日以後にその氏を変更の際に称していた氏に変更しようとするときは、その者は、その日から三箇月以内に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出ることができる。 ○4 第一項の規定は、父又は母が外国人である者(戸籍の筆頭に記載した者又はその配偶者を除く。)でその氏をその父又は母の称している氏に変更しようとするものに準用する。 |
出身地 新潟県加茂市
略 歴 新潟県立三条高等学校卒
新潟大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
最高裁判所司法研修所修了後、弁護士登録
趣 味 サッカー、旅行(特に京都が好きです) 一 言 フットワークの軽さ・迅速な対応を心掛け ています。まずはお気軽にお問合せください。 |