札幌地方裁判所は、令和元年12月12日、不起訴となった男性の過去の逮捕歴を示す検索結果の削除を、google社に命ずる判決を下しました。
検索結果の削除を認める裁判所の判断は、これまで仮処分決定が出された例はありましたが、判決で検索結果の削除を認めたのは初めてだとみられています。
今回は、検索結果の削除に関する問題について考えてみます。
本件では、原告の男性は、平成24年に強姦の容疑で逮捕されましたが、嫌疑不十分で不起訴処分となりました。
しかし、不起訴処分となった後にも、原告の氏名などを検索エンジンで検索すると、逮捕された事実などが表示され続けたため、平成30年に、原告の男性は、逮捕結果が表示され続けるのはプライバシーの侵害だとして、グーグル相手に検索結果の削除を求める裁判を提起しました。
この問題は、過去に犯罪を犯した人などが、罪を償い、社会復帰した後にも、ネット上に残り続ける犯罪歴について、これを削除すべきなのか、残すべきかという問題であり、いわゆる「忘れられる権利」として、これまでも議論されてきました。
過去に逮捕歴のある男性が、「グーグル」の検索結果から、検索結果に表示される自分の逮捕歴に関する情報の削除を求めた仮処分命令申立事件において、平成29年1月31日の最高裁判所判決は、これを認めない決定をしました。
同決定では、ある者のプライバシーに属する事実を含むウェブサイトの検索結果の削除が認められるか否かは、この事実を公表されない法的利益とこのウェブサイトの検索結果を提供する理由に関する諸般の事情を比較衡量すべきであり、比較衡量の結果、公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索結果の削除を認めるべきだとされています。
そして、その判断要素として、①被侵害利益の重要性、②侵害の程度、③表現行為の必要性・相当性、を検討すべきであり、①被侵害利益の重要性については、プライバシーに関する事実の性質・内容、②侵害の程度については、検索結果が提供されることによってその事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、③表現行為の必要性・相当性については、㋐その者の社会的地位、㋑その事実を含む記事等の目的や意義、㋒その記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、㋓記事等においてその事実を記載する必要性、を検討すべきと判断されました。
比較衡量の結果、「公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」に削除が認められるべきだとするこの判例に対しては、検索結果の削除について非常に高いハードルを課したものだと分析されています。
この裁判所の決定が及ぼした影響は大きく、最高裁判所の同決定以降、専門家からは、裁判所の判断が委縮したとも指摘されているところです。
今回の札幌地裁の判決では、原告が不起訴になったことや、原告が私生活上で被る不利益が大きいなどを考慮し、「公表されない利益が表示維持を優越する」と判断し、グーグルに対して検索結果の一部削除を命じました。
昨今のネット社会では、ひとたびネット上にプライバシーを侵害する事実が残されてしまうと、それをなかなか消すことができず、苦しむことになるケースも少なくありません。今回の札幌地裁の判決は、国民のプライバシーをどこまで重視すべきなのか、どのような情報が公益性のあるものとして残されるべき情報なのか、という点について、議論を投げかけた判決ではないかと思います。
出身地 大阪府豊中市
略歴 早稲田大学法学部卒
神奈川大学法科大学院修了
最高裁判所司法研修所修了後,弁護士登録
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