改正労働施策総合推進法(以下、「法」といいます。)は、30条の2第1項において、職場におけるパワハラを以下のように定義づけました。
①職場における優越的な関係を背景として
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
③労働者の就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)
上記①~③の要素を全て満たすものがパワハラとされており、これらの要素を満たさない適正な範囲の業務指示や指導については、パワハラには該当しません。
厚生労働省の発表している「指針」には、典型的な職場におけるパワハラとして、以下の6類型を挙げています。
①身体的な攻撃
これは、暴行・傷害といった類型です。
例えば、殴打することや足蹴りを行うこと、又、相手に物を投げつけることなどが具体例として挙げられます。
それに対し、誤ってぶつかることなどは、パワハラに該当しないとされています。
②精神的な攻撃
脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言といった類型です。
例えば、人格を否定するような言動を行うことや、業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと、相手の能力を否定し罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者あてに送信することなどが具体例として挙げられます。
これに対し、遅刻などの社会的ルールを欠いた言動に対して再三注意しても改善がされない労働者に一定程度強く注意することや、重大な問題行動を行った労働者に対して一定程度強く注意することなどは、パワハラに該当しないとされています。
③人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視といった類型です。
例えば、仕事から外して長期間にわたり別室に隔離したり自宅研修をさせることや、一人の労働者に対して同僚が集団で無視することなどが具体例として挙げられています。
これに対し、新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等を実施することや、懲戒を受けた労働者を通常業務に復帰させる前などに一時的に別室で研修を受けさせることなどは、パワハラに該当しないとされています。
④過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害といった類型です。
例えば、長期間にわたって肉体的苦痛を伴う過酷な環境下において、勤務に直接関係のない作業を命じることや、新卒採用者に対し、必要な教育を行わずに到底対応できないレベルの業務目標を課し、達成できなかったことに対して厳しく叱責すること、労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせることなどが具体例として挙げられています。
これに対し、労働者を育成するために原状よりも少し高いレベルの業務を任せることや、業務の繁忙期に業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せることなどは、パワハラに該当しないとされています。
⑤過小な要求
業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないといった類型です。
例えば、管理職である労働者を退職させるために誰でも遂行可能な業務を行わせることや、気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないことなどが具体例として挙げられています。
これに対し、労働者の能力に応じて、一定程度業務量を軽減することは、パワハラに該当しないとされています。
⑥個の侵害
私的なことに過度にたちいるといった類型です。
例えば、労働者を職場外でも継続的に監視したり、労働者の性的嗜好・性自認や病歴、不妊治療歴等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露することが具体例として挙げられています。
これに対して、労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うことや、労働者の了解を得て、当該労働者の性的嗜好・性自認や病歴、不妊治療歴等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すことなどはパワハラに該当しないとされています。
パワハラ防止法は、事業主に対して、次のような措置を義務付けています。
① 事業主は、パワハラが行われないように、労働者からの相談に応じたり、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない(法30条の2第1項)。
② 事業主は、労働者がパワハラの相談をしたことなどを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない(法30条の2代2項)
③ 事業主は、パワハラ問題について労働者の関心と理解を深めるとともに、労働者に注意を払うように研修の実施その他の必要な配慮などをしなければならない(法30条の3第2項)。
④ 事業主は、自らも、パワハラ問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払わなければならない(法30条の3第3項)。
現代では、職場における悩み事の最も多いテーマが、パワーハラスメントだと言われており、そのような背景を受けて、パワハラ防止法が成立しました。
パワハラ防止法や「指針」に対しては、抽象的で何が良くて何が悪いかが明確でないといった批判もあるようです。しかし、パワハラ防止法は、パワハラを定義づけたという点では画期的ですし、よりよい職場環境を整備するための法律だといえます。法の趣旨や「指針」が示す内容を理解して実行し、職場ではお互いが思いやりの心をもつことが重要ではないでしょうか。(作成日:令和2年6月30日)
出身地 大阪府豊中市
略歴 早稲田大学法学部卒
神奈川大学法科大学院修了
最高裁判所司法研修所修了後,弁護士登録
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