「アウティング」とは、一般的に、自分が認識する性別や好きになる相手の性別といったセクシャリティを、本人の了解なく第三者に暴露する行為をいいます。
「カミングアウト」とは、これまで誰にも言ってこなかった自分の秘密を自ら第三者に打ち明けることを言いますが、カミングアウトが自ら打ち明けることであるのに対し、アウティングは、他人が本人の了解なく暴露する行為であることに違いがあります。
令和元年に成立し、令和2年6月に施行された女性活躍・ハラスメント規制法(いわゆる「パワハラ防止法」)の指針でも、アウティングはパワハラの類型の一つと位置付けられています。
アウティングが注目された事件として、いわゆる「一橋大学アウティング事件」が挙げられます。
一橋大学アウティング事件とは、一橋大学法科大学院の学生だった男性が、平成27年に同級生に同性愛を暴露された後、校舎から転落死したという事件であり、遺族が大学に対して損害賠償請求訴訟を提起したことにより注目されることになりました。
第一審裁判所であった東京地方裁判所は、平成31年2月27日に遺族側の訴えを棄却する判決を出し、それに対して遺族側は控訴をしていました。
令和2年11月25日、控訴審である東京高等裁判所は、一審の東京地方裁判所の判決と同様に、遺族側の請求を棄却しましたが、その判決の中で、アウティングについて「人格権ないしプライバシー権などを著しく侵害する者であり、許されない行為であることは明らか」と言及し、アウティングの違法性について言及した日本で初めての判決とされています。
また、東京都豊島区の会社に勤務していた20代の男性の性的指向を、上司がアウティングしたため精神的苦痛を与えたとして、その男性が豊島区の条例に基づくあっせんを申し立てていた別の事件については、先日、会社側が男性に対して謝罪し、解決金を支払うことで和解が成立したと報道されました。
性的少数者約1万人を対象とした昨年の調査によれば、約25%がアウティング被害を経験しているといった調査結果も出ており、アウティングがパワハラに該当することに対する認識の低さが見て取れます。
性的マイノリティーなど、個人の多様性を尊重することが求められる昨今、アウティングは、対象者を深く傷つけるもののみならず、パワハラの一類型として位置づけられています。今後は、企業としても、アウティングがパワハラに該当することを従業員に周知させるなど、パワハラ防止行為の一環としてアウティングをなくすように対策することが求められると言えるでしょう。
2020年11月30日 作成
出身地 大阪府豊中市
略歴 早稲田大学法学部卒
神奈川大学法科大学院修了
最高裁判所司法研修所修了後,弁護士登録
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