弁護士法人美咲総合法律税務事務所では,法務・税務関連のニュースや弊事務所の近況などを,ニュースレターとして不定期にお送りさせていただいております。
さて,17回目の今回は,弊事務所にもたびたびご相談が寄せられています「懲戒処分」について,お伝えいたします。
懲戒処分とは,堅い表現でいえば,使用者が,秩序等を維持するために,従業員の秩序違反行為に対して課す制裁のことです。
当事務所にも「従業員がセクハラをしたんですが,懲戒解雇にしてもいいでしょうか」,「業務命令に従わない従業員がいるんですが,どの懲戒処分が適切でしょうか」といったご相談が寄せられます。
このニュースレターをお読みの皆様の会社にも「懲戒処分」の存在は知っているものの,その内容をよく把握していないという方は,実はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで,今回はこの懲戒処分についてお話ししたいと思います。
懲戒処分には,一般的には,戒告,譴責,減給,出勤停止,降格,諭旨解雇,懲戒解雇が定められている会社が多いかと思います。これは処分が軽い順番で並べており,戒告が一番軽く,懲戒解雇が一番重い内容です。
戒告や譴責は,労働者に反省を求める注意のようなもので,一般的には,戒告は口頭ですし,譴責は書面で行うことが多いです。また,減給は,読んで字のごとく,賃金の一部を差し引く処分ですが,実は差し引いて良い金額は,労働基準法91条で,1回の額(すなわち,1件の懲戒事案についての減給額)が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない,とされています。そのため,例えば,月給30万円で,平均賃金1日分が1万円とした場合,1回の処分では5000円までしか差し引いてはならないのです。「それでは少ない!」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが,給料は生活に対する影響が大きいことから,このような縛りが設けられています。
出勤停止は,一定期間従業員の就労を禁止するものですが,通常,当該期間中は賃金が支給されません。
諭旨解雇は「ゆしかいこ」と読みます。「ろんしかいこ」と読まれる方もいらっしゃいますが,実は誤りです。これは,一定期間内に退職するよう勧告して,それに従った場合は自主的な退職となり,提出されない場合は懲戒解雇とするものです。
そして懲戒解雇が一番重い処分なわけですが,通常の「解雇」と何が違うのかというと,懲戒処分は会社の秩序違反に対してなされるものですが,普通解雇は従業員がケガ等で就労できない場合や,能力不足,成績が悪い等の理由でなされるものです。後者の場合は解雇予告義務がありますので,解雇予告手当を支払うか,30日前に解雇予告をする必要があります(懲戒解雇の場合は,労基署の除外認定を受ければ解雇予告手当の支払い等をしなくてもよくなります)。
懲戒処分はどんな秩序違反に対してもしてもよいというわけではありません。もし法律の想定するルールに違反すれば,懲戒処分が無効となりかねませんし,従業員とのさらなるトラブルを引き起こすことになりますので注意が必要です。
具体的には,①就業規則で懲戒事由及び懲戒の種類が定められていること,②処分をすることにつき客観的合理的理由があること,③その処分が社会通念上相当であること,が要件とされています。
よく問題になるのは③の要件です。処分内容が相当であることや,きちんと手続をふんでいるのか,というところがポイントです。例えば,従業員が会社のお金を横領をしたとします。過去の横領をした従業員に対しては「減給」処分だったのに,今回の件でいきなり「懲戒処分」をしようとすると,なぜ今回は重くするのかという公平性が問われるでしょうし,秩序違反の程度が軽いのにいきなり懲戒解雇をしようとするのは無理があります。
もし懲戒処分をする場合には,事前にご相談いただくことをお勧めします。
関連したお話しですが,懲戒解雇にした場合に退職金は払わなければならないのか,というご相談を受けることがあります。
世の中では,「懲戒処分の場合,退職金は支払われない」と言われているようですが,裁判所の考え方は違っていまして,まず①退職金の全部又は一部を不支給とする旨が就業規則や退職金規程で定められている必要があり,②退職金を全部又は一部を不支給とするほどに,過去の労働の価値を抹消・減殺するほどの背信行為があるかことが必要とされています。
鉄道会社が痴漢撲滅キャンペーンをしていたところ,同社の従業員が,休日に,他の鉄道会社の車内で痴漢行為をして逮捕をされました。鉄道会社はその従業員を懲戒解雇とした上で,退職金を全く支給しないこととしました(なお,退職金としては900万円ほどが支払われる予定でした)。
これに対して,処分を受けた従業員が退職金の支払い等を求めて裁判を起こしたのですが,裁判所は,懲戒解雇に至る経緯,過去の勤務態度等を総合的に考慮し,3割に相当する約280万円の支払いを認めたのです。
このように,「懲戒解雇の場合は,退職金は支払わなくていい」というわけではないのです。
懲戒処分は,ここに書ききれないほど多種多様な法律問題があります。従業員のことで懲戒処分を検討される場合,ぜひ一度弁護士にご相談ください。
猛烈な暑さを記録した夏が終わり,最近はぐっと涼しくなりましたね。秋の紅葉が待ち遠しく思います。おすすめは,やはり京都です。左京区大原にある「寂光院」や「宝泉院」は特に気に入っています。ほかには,北区鷹峯にある「源光庵」もなかなか趣があります。「悟りの窓」「迷いの窓」からながめる紅葉は良いですね。
これからどんどん寒くなっていきますが,皆様体調にはくれぐれもお気を付けください。(弁護士五十嵐勇)
Vol. | 発刊月 | メインテーマ |
31 | 2022年1月 | 2022年に実施される法律 |
30 | 2021年6月 | 事業承継について考える |
29 | 2021年1月 | ウィズコロナ時代の労務管理のポイント |
28 | 2020年9月 | まだ間に合う、新型コロナ関連の給付金・補助金等 |
27 | 2020年6月 | インターネット・名誉棄損・コロナ・懲戒・プライバシー |
26 | 2020年4月 | 新型コロナウイルスに関する労務問題Q&A |
25 | 2020年2月 | 事業承継について |
24 | 2019年12月 | パワハラ防止対策について |
23 | 2019年10月 | 契約書作成のポイント |
22 | 2019年8月 | 受動喫煙防止を内容とする法律の改正について |
21 | 2019年6月 | SNSと雇用管理について |
20 | 2019年4月 | 年次有給休暇付与の義務化について |
19 | 2019年2月 | 勾留延長?準抗告?保釈って? |
18 | 2018年12月 | 働き関連法の概要 |
17 | 2018年10月 | その「懲戒処分」、大丈夫ですか? |
16 | 2018年8月 | 成人年齢引き下げ(18歳)について |
15 | 2018年6月 | 交通事故(物損)Q&A |
14 | 2018年4月 | 民法(相続分野)改正 |
13 | 2018年2月 | 債権回収の進め方 |
12 | 2017年12月 | 「経営者保障に関するガイドライン」とは? |
11 | 2017年10月 | 民法(債権分野)改正 |
10 | 2017年8月 | 残業時間に関する規制の概要 |
9 | 2017年6月 | 個人情報保護法改正ー中小企業実務への影響 |
8 | 2017年4月 | 相続の基本と相続Q&A |
7 | 2017年2月 | 従業員の交通事故に対する会社の責任 |
6 | 2016年12月 | 成年後見制度について |
5 | 2016年10月 | 職場のメンタルヘルス対策,大丈夫ですか? |
4 | 2016年8月 | 刑事手続きの流れ |
3 | 2016年6月 | 離婚問題について |
2 | 2016年4月 | 遺言を残すにはメリットがあります |
1 | 2016年2月 | これだけは知っておきたい!交通事故の注意点! |