近年、頻繁にパワハラ(パワーハラスメント)という言葉を耳にするようになりました。令和元年5月29日に企業・職場でのパワハラ防止を義務付ける法案(「改正労働施策総合推進法」いわゆるパワハラ防止法)が成立し、今後、パワハラなどの防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となります。
今回のニュースレターでは、パワハラの定義とパワハラ防止対策のポイントをご説明いたします
そもそも、パワハラとは、どのような行為をいうのでしょうか?
改正労働施策総合推進法(以下、「法」といいます。)は、30条の2第1項において、職場におけるパワハラを以下のように定義づけました。
①職場における優越的な関係を背景として
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
③労働者の就業環境を害すること(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)
上記①~③の要素を全て満たすものが、パワハラとされており、適正な範囲の業務指示や指導については、パワハラには該当しません。
また、「職場」とは、事業者が雇用する労働者が業務を遂行する場所とされ、「労働者」とは、正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等の非正規雇用労働者を含む全労働者が対象になります。
そして、法は、事業主に対して、次のような措置を義務付けています。
①事業主は、パワハラが行われないように、労働者からの相談に応じたり、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない(法30条の2第1項)。
②事業主は、労働者がパワハラの相談をしたことなどを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない(法30条の2第2項)
③事業主は、パワハラ問題について労働者の関心と理解を深めるとともに、労働者に注意を払うように研修の実施その他の必要な配慮などをしなければならない(法30条の3第2項)。
④事業主は、自らも、パワハラ問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払わなければならない(法30条の3第3項)。
これらに反しても罰則は定められていませんが、厚生労働大臣は事業主に対して助言・指導・勧告をすることができ、従わない場合にはそれを公表される可能性があります。
それでは、事業主としての企業は、具体的にどのような施策を行っておくべきでしょうか?
1 社内アンケートなどの実施
パワハラ防止策の一環として、事業主としては、労働者に対し、社内アンケートなどを定期的に実施することが考えられます。
管理職や従業員に対し、「パワハラ行為を目にしたことがあるか?」「パワハラに遭ったことがあるか?」「どのような内容のパワハラだったか?」などといったアンケートを実施することにより、社内におけるパワハラの実態を把握することができます。また、従業員に対してパワハラに対する意識を喚起することができ、間接的にパワハラを抑止する効果が期待できます。
2 相談窓口、相談部署の設置
社内にパワハラ問題を相談できる「相談窓口」や、パワハラを相談できる部署を設置することが考えられます。
社内にパワハラが存在することにより、従業員に対して大きな悪影響が及びます。また、パワハラ問題が大きくなると、従業員がうつ病になったり、ひどい場合には、自殺してしまうような事案も見られます。
早期の段階で、従業員がパワハラ問題を相談できる窓口などがあれば、問題が深刻化する事態を避けることができる可能性が高くなると言われています。
このように、パワハラ問題の相談窓口などを設置し、全従業員に周知することが推奨されています。また、顧問弁護士がいる場合には、顧問弁護士を外部相談窓口として設置することも有効だと思われます。
3 社内研修の実施
パワハラ問題に関する社内研修の実施も重要だと考えられています。
例えば、どのような行為がパワハラに該当するのか、適正な範囲の業務指示・指導としてどこまでの行為が許されるのか、パワハラの加害者に対して会社としてどのような措置をとるのか、といった事項を説明し、会社全体として共通意識を持つ必要があります。
また、内研修は定期的に実施すべきですし、管理職には一般従業員とは別に研修することが好ましいでしょう。
4 就業規則の改定
就業規則は、従業員が守らなければならない会社のルールです。就業規則にパワハラを禁止する規定を明確に定めておくことをお勧めします。
たとえば、繰り返しパワハラ行為を行う従業員がいた場合、会社としては、その従業員に対して懲戒処分として、場合によっては懲戒解雇をする必要があります。
このような場合に、パワハラ行為を明確に懲戒事由として就業規則に定めておかなければ、懲戒解雇の有効性に疑義を生じさせることになりかねません。
もし、パワハラが発生してしまった場合には、以下の流れで問題を処理するのが一般的です。
1 相談を受ける
会社がパワハラ被害を把握するきっかけは、被害者からの相談が多数です。
2 調査を行う
相談を受けたら、会社は事実確認のために調査を行います。加害者・目撃者などから中立的な立場でヒアリングを行います。
3 被害者対応と加害者の処分
被害者に対しては休暇を与えたり、配置転換を行ったりすることが考えられます。また、加害者に対しては配置転換・懲戒処分などを検討します。
昨今、社会情勢の変化とともに、法改正が相次いでいます。民法の大改正や、働き方改革に関する法改正に加え、今回取り上げたパワハラに関する法改正など、企業法務に関する法改正については、常に新しい情報をアップデートしていく必要があります。
企業のコンプライアンスが特に指摘される現在、法改正を踏まえて就業規則や社内体制などを常に最適化するといった柔軟な対応が求められているのではないでしょうか。
企業法務や労務に関するご相談がありましたら、当事務所に気軽にお問い合わせください。(弁護士 江幡 賢)
Vol. | 発刊月 | メインテーマ |
31 | 2022年1月 | 2022年に実施される法律 |
30 | 2021年6月 | 事業承継について考える |
29 | 2021年1月 | ウィズコロナ時代の労務管理のポイント |
28 | 2020年9月 | まだ間に合う、新型コロナ関連の給付金・補助金等 |
27 | 2020年6月 | インターネット・名誉棄損・コロナ・懲戒・プライバシー |
26 | 2020年4月 | 新型コロナウイルスに関する労務問題Q&A |
25 | 2020年2月 | 事業承継について |
24 | 2019年12月 | パワハラ防止対策について |
23 | 2019年10月 | 契約書作成のポイント |
22 | 2019年8月 | 受動喫煙防止を内容とする法律の改正について |
21 | 2019年6月 | SNSと雇用管理について |
20 | 2019年4月 | 年次有給休暇付与の義務化について |
19 | 2019年2月 | 勾留延長?準抗告?保釈って? |
18 | 2018年12月 | 働き関連法の概要 |
17 | 2018年10月 | その「懲戒処分」、大丈夫ですか? |
16 | 2018年8月 | 成人年齢引き下げ(18歳)について |
15 | 2018年6月 | 交通事故(物損)Q&A |
14 | 2018年4月 | 民法(相続分野)改正 |
13 | 2018年2月 | 債権回収の進め方 |
12 | 2017年12月 | 「経営者保障に関するガイドライン」とは? |
11 | 2017年10月 | 民法(債権分野)改正 |
10 | 2017年8月 | 残業時間に関する規制の概要 |
9 | 2017年6月 | 個人情報保護法改正ー中小企業実務への影響 |
8 | 2017年4月 | 相続の基本と相続Q&A |
7 | 2017年2月 | 従業員の交通事故に対する会社の責任 |
6 | 2016年12月 | 成年後見制度について |
5 | 2016年10月 | 職場のメンタルヘルス対策,大丈夫ですか? |
4 | 2016年8月 | 刑事手続きの流れ |
3 | 2016年6月 | 離婚問題について |
2 | 2016年4月 | 遺言を残すにはメリットがあります |
1 | 2016年2月 | これだけは知っておきたい!交通事故の注意点! |