2018年4月発行
- 民法(相続分野)改正
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弁護士法人美咲では,法務・税務関連のニュースや弊事務所の近況などを,ニュースレターとして不定期にお送りさせていただいております。
さて,14回目の今回は,3月に国会に法案が提出された相続分野に関する民法の改正についてお伝えいたします。
民法(相続分野)改正
民法(相続関係)の改正に関する概要
平成30年3月13日,民法の一部(相続関係)を改正する法律案が国会に提出されました。民法の相続分野における大きな改正は約40年ぶりということです。
今回のニュースレターでは,改正のポイントをご説明いたします
配偶者の居住権
配偶者が,被相続人(亡くなった方)が所有している建物(自宅)に住んでいる場合,被相続人が亡くなった後も引き続きその建物に住み続けたいと考えるのが一般的です。
しかし,自宅とその敷地の財産的価値が配偶者の相続分を上回る場合,配偶者がそれらの不動産を相続するとなると,配偶者の相続分を上回る状態になるため,上回った分を金銭等で他の相続人に支払う可能性が生じます。
また,仮に自宅とその敷地の財産的価値が配偶者の相続分以下であったとしても,配偶者は不動産を取得したことで,預貯金等のその他の遺産はそれほど多く取得することができず,今後の生活に不安が残る状態となります。
改正案は,まず,被相続人が亡くなった際,配偶者が被相続人名義の建物に無償で居住していた場合,遺産分割が終わるまでまたは被相続人が亡くなってから6か月を経過する日のいずれか遅い日まで,その建物に無償で居住し続けることができるとの規定を設けました。
また,遺産分割においては,居住用の建物の所有権を,配偶者の(建物への)居住権とその負担付きの建物所有権とに分け,それぞれの権利の財産的価値を算出した上で遺産分割を行うことができるようになります。
このように権利を分けて考えることで,配偶者は,建物の所有権を取得しなくても,居住権さえ取得すれば引き続き建物に居住し続けることができます。
そして,居住権は建物そのものの財産的価値よりは低額であるため,配偶者が居住権を取得した場合であっても,相続分を上回る可能性は低くなり,また,預貯金等のその他の遺産を取得しやすくなるという効果があります。
遺産分割開始前の預貯金の払出し(仮払い制度)
これまで,銀行等に対する預貯金債権(預貯金の払い出しを求める権利)は,相続開始と同時に相続分に応じて分割されるものとされ,遺産分割の対象となる財産ではないとされてきました。
そのため,各相続人の相続分に応じた預貯金債権の請求に応じ,預貯金の払い出しに応じる銀行等もありました。
しかし,平成28年,最高裁判所(最高裁)は,預貯金債権は,相続開始と同時に相続分に応じて分割されるものではなく,遺産分割の対象となる財産になる旨判断しました。
この最高裁の判断は,裁判となった事例の事情を踏まえて下されたものであり,他の事案においても当然に同様の結論になるわけではありません。
しかし,預貯金債権が遺産分割の対象になれば,銀行等は,遺産分割前に払い出しに応じることはほとんどなくなることが想定されます。被相続人が亡くなった後,被相続人自身の負債や葬儀費用等の支払いを行う必要が出てくる中で,遺産分割が終わるまで預貯金を払い出しできないとなれば,相続人等にとっても不都合になります。
改正案は,各相続人が単独で一定限度の預貯金債権を行使できるという規定を設けております(これを「仮払い制度」と呼びます。)
自筆証書遺言の方式の緩和
現行の民法では,遺言の一つである自筆証書遺言は,遺言者が遺言書の全文を自書しなければ無効となります。
一人の者に全ての遺産を相続させるような内容の遺言であれば,自書するとしてもそれほど大きな手間にはなりません。
しかし,例えば不動産ごとに相続・遺贈する者を変えたりするとなると,不動産の情報(所在地,家屋番号,構造,面積等)まで自書する必要が生じるため,遺言者が自書する負担が大きくなります。
改正案は,遺言書本文は自書することは必要であるものの,財産目録は,自書してないものであっても遺言者がその目録に署名・押印したもので良いとされております。
例えば,遺言本文で,「長男●●に対して別紙不動産を相続させる」とし,別紙として不動産の全部事項証明書(登記情報)に署名・押印して遺言書に添付すれば,自筆証書遺言として有効となります。
遺留分減殺請求の効力及び法的性質の見直し
遺留分とは,一定の範囲の法定相続人に法律上認められた,一定割合の相続財産取得分を言います。
この制度は,遺言等による被相続人の意思は尊重しつつも,残された家族の生活にも配慮し,一定の相続人に最低限度の遺産を取得する権利を認めるものです。
現行の民法では,遺留分を主張することを「遺留分減殺請求」と呼んでいます。
遺留分減殺請求を行った場合,遺言の効力は遺留分を侵害する範囲で失効します。
例えば,不動産しか財産がない被相続人が,その不動産を相続人の一人に相続させる旨の遺言を残した場合,別の相続人が遺留分減殺請求をすると,遺留分を侵害する範囲で,その相続人も不動産の権利の一部を取得することができます。
これに対し,遺言で不動産を相続した者は,遺留分が侵害されている部分をお金で支払うとの意思表示を行うことで(これを「価額弁償」といいます。),不動産の権利自体は守ることができます。
現行の民法における遺留分の効果は以上のとおりですが,改正案では,遺留分を主張された場合,遺留分が侵害されている部分をお金により支払うこととしました。
改正案がこのような内容になったのは,現行の民法では,遺留分減殺請求により不動産等の財産が共有という不安定な状態になることや遺留分制度の趣旨からは,一定の相続人に対して金銭が確保されれば足りることが理由とされています。
今後の見通し
民法(相続関係)を改正する法律案が今国会で成立した場合,早ければ平成32年頃に施行されると言われております。
編集後記
遺言を作成される人は年々増えてはいるものの,割合としてはまだまだ少ないと言えます。
ある書籍によれば,日本人が遺言を残さない理由として,親が子供達に対する愛情に「差」を設けたくないためではないかと分析されています。
しかし,死後にモメる可能性がある場合,遺言を残さない方がかえって子供達の間の紛争を深刻化させるおそれがあります。
民法(相続分野)改正案が自筆証書遺言に添付する財産目録を自書不要としたのは,遺言者の負担を軽減させ,遺言の作成を促すことで,死後に紛争となる件数を少しでも減らそうという意図があるのかもしれません。(弁護士 江畑博之)