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Vol.27 インターネット・名誉棄損・コロナ・懲戒・プライバシー

2020年6月発行

  • インターネット・名誉棄損・コロナ・懲戒・プライバシー

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弁護士法人美咲では、法務・税務関連のニュースや弊事務所の近況などを、ニュースレターとして不定期にお送りさせていただいております。
さて、27回目の今回は、最近の社会情勢に絡めて、個人情報について解説させていただきます。

インターネット・名誉棄損・コロナ・懲戒・プライバシー

1 はじめに

インターネット上の誹謗中傷等によって、テレビ番組の出演者が亡くなるという痛ましい事件が起きたことは、皆さんご存知だと思います。

これに関して、インターネット上の誹謗中傷については、法的な対処が難しいと報道されています。

この点について、自分や自社が誹謗中傷の被害に遭った場合の救済方法を含め、ご説明します。

他方で、他人の情報について、公開しなければならないのではないかと思われることもあります。

例えば、従業員がコロナウイルスに感染した場合に、会社内外に何らかの情報提供を行いたいと思われるかもしれませんが、プライバシーとの関係で、どこまで、どのように開示すべきでしょうか。

あるいは、従業員を懲戒処分に付した場合に、会社内にどこまでの情報を開示してよいのでしょうか。

今回のニュースレターでは、これらの点について解説します。

2 インターネット上の名誉毀損

まず、名誉毀損とは、人が社会から受ける客観的評価を下げる行為を言います。事実(真実)であっても名誉毀損は成立しますし、法人に対する名誉毀損も成立しますので、会社の社会的評価を下げるような言動については、損害賠償請求をすることが可能です。

ただし、社会的評価を下げるといいうるためには、一定の範囲の者に対し知りうる状況が必要です。また、表現の程度によっては、違法性がないとされることもあります。

さて、インターネット上の名誉毀損については、なぜ損害賠償請求をすることが難しいのでしょうか。

それは、多くのインターネット上の表現が、住所も氏名も分からない匿名の第三者によって行われるためです。

基本的に裁判で損害賠償請求を行うためには、相手方の氏名や住所が必要となります。

そこで、名誉毀損を行った人の住所や氏名を特定する必要があるのですが、現状の法制度のもとではここに大変な労力を要するのです。

3 書き込みをした者の特定

例えば、インターネット上の掲示板で匿名での誹謗中傷の書き込みがあったという事案を念頭に置きます。

インターネットを利用する際には、加入しているプロバイダにアクセスしてインターネットに接続しています。この際、プロバイダは、利用者にIPアドレスを割り当てます(IPアドレスとはインターネット上の住所のようなものといわれます)。したがって、IPアドレスが分かれば、プロバイダはインターネット利用者=書込みをした者が分かるということになります。

そこで、利用者を特定するためには、掲示板の管理者から、利用者のIPアドレスを開示してもらい、それをもとにプロバイダに利用者の氏名や住所等の情報を開示してもらいます。この際、プロバイダは任意での情報開示に応じないことが多く、強制的に開示させるためには、訴訟を提起しなければなりません。

つまり、通常の名誉毀損等の不法行為事案であれば、加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起すれば良いのに対し、インターネット上の名誉毀損では、被害者を特定する段階で一度訴訟をしなければならないのです。

このように、現在の法制度のもとでは、インターネット上の匿名の名誉毀損に対し損害賠償請求をする場合には、相当の手間・コストが掛かってしまうため、被害者の救済が困難になっているという事情があります。

4 従業員に関する情報の開示

それでは、従業員が新型コロナウイルスに感染したことが分かった場合に、それを社内に公表することは、従業員の名誉あるいはプライバシーを侵害することにならないのでしょうか。

あるいは懲戒処分をした従業員について、氏名や懲戒の内容を社内で公表することは、従業員の名誉やプライバシーを侵害することにならないのでしょうか。

5 プライバシーとは

プライバシーという言葉はよく使われますが、日常用語的にはもちろんのこと、法的にも一義的な定義はありません。

ただし、大きくは、一般人の感覚からして公開されたくないことをみだりに公開されない権利と考えてよいと思います。

したがって、例えば新型コロナウイルスに感染したというような病歴は、プライバシーの中核にあるものと考えられますし、当然ながら懲戒処分の公表も名誉やプライバシーを侵害する恐れがあります。

6 プライバシーに配慮した公表

以上のとおり、従業員の感染や、懲戒処分の内容を漫然と公表すると、従業員のプライバシーや名誉を侵害する可能性があります。

しかし、他方で会社には、従業員の安全を守る義務もありますし、また懲戒を公表することで、再発防止につとめなければならないという要請もあります。

そこで、もちろん会社の状況や事案の内容にもよると思いますが、原則として氏名の公表等、個人が特定される形での公表は避け、氏名の公表等は真に必要な場合に限るというのが一つの方法だと思います。

例えば、新型コロナウイルスであれば、基本的には氏名の公表はせず、濃厚接触者に対し在宅勤務又は自宅待機を命じるといった対応が考えられます。このようにすると、濃厚接触者としては、誰が感染しているか特定することが可能になるかもしれませんが、それはやむを得ないものと考えられます。

また、懲戒の公表については、再発防止の観点からすると、必ずしも氏名の公表は必要ありませんので、部署や事案の概要等の公表にとどめるという方法がよいと思います。

編集後記

名誉、プライバシーといった問題は、日常的に問題になることは少なく、相談件数も多いというものでもありません。

しかし、近時インターネット上の名誉毀損や、新型コロナウイルスに関連した従業員のプライバシー等が問題となることが多いため、併せて記事にしました。
(弁護士 小林 塁)