2019年10月発行
- 契約書作成のポイント
- 書類送検
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弁護士法人美咲では、法務・税務関連のニュースや弊事務所の近況などを、ニュースレターとして不定期にお送りさせていただいております。
さて、23回目の今回は、取引の基本である契約書について解説致します。
契約書作成のポイント
1.権利義務の発生原因
権利や義務を発生させる原因は、大きく分けて契約と不法行為があります。
不法行為は、例えば交通事故によって被害者にけがをさせた場合のように、故意や過失によって他人に損害を負わせた場合に、その損害を賠償しなければならないというものです。
この不法行為は、当事者が権利義務を発生させたいという意思を持ったから権利義務が発生するものではなく、故意や過失によって他人に損害を負わせたという事実から、権利義務が発生するものです。
これに対し、契約は当事者間のお互いに取引する(権利義務関係を発生させる)という意思に基づいて、権利義務関係を発生させるものです。
2.私的自治の原則
企業間、個人間を問わず、民法上、私的自治の原則が取られています。これは、私人間の法律関係については個人が自分の意思に基づいて自律的に形成できるという原則です。
ですので、私人が行う契約内容(権利義務の内容)は、互いが合意すれば、基本的には自由に決めることができます。
3.契約書の意義
このように、当事者間の意思(合意)によって契約は成立しますので、契約の成立によって契約書は必ずしも必要ではありません。
しかし、裁判となれば、その契約に基づいて権利を主張しようとする人、例えば売買契約に基づいて、売買代金の支払請求をしようとする買主は、売買契約の存在を証明しなければなりません。
ここでのポイントは、証明とはどの程度のものを指すのかということです。
これについては、裁判官にある事実の存在を確信させる程度のものである必要があります。
例えば、AさんとBさんがいます。Aさんは売買契約が成立したと主張し、Bさんは交渉はしたものの、契約の成立には至っていないと主張していたとします。
こういった事案で契約書がないと、裁判官はどう考えるでしょうか。契約が成立したか、していないか分からないということになると思います。そうした場合、売買契約の成立は認められず、売買契約に基づいて権利を主張する人はその権利が認められないということになっていまいます。
そこで、契約を証明する手段として、契約書が重要になってきます。
4.契約書作成のポイント
今は、インターネットで調べれば契約書のひな形はたくさん出てきますし、ひな形を集めた書籍も豊富です。
そして、契約書をいちから考えるのは大変ですし、定型的な表現もありますので、ひな形を利用するのは有益だと思います。しかし、ひな形はひな形であり、実際の取引に応じて、修正する必要があります。
そこで、まずはひな形をしっかり読み、互いがどのような権利義務を負うのかしっかりと理解することが重要ですし、理解できない条項や内容が不明確な条項があれば、分かりやすく修正するべきです。
といいますのも、実際に契約書に関する相談を受けていますと、条項間に矛盾があったり、条項が不明確(複数の解釈が生じうる)なものが見受けられるためです。
このようになっている原因は、契約書を難しいものと考え、はじめからしっかりと理解しようとしないことによるものと思われます。
しかし、先に述べたように、契約は当事者間の合意によって成立し、その内容は当事者が自由に決めて良いのですから、読んで理解できない条項は、むしろ条項に問題があると考え、分かりやすい条項にするべきです。
そして、契約は互いの権利義務を発生させるものであるものですから、その契約書から互いにどのような権利義務を負うのかを把握し、自分の義務をしっかり履行できるか(できないのであれば条項を修正する)、相手方の義務が軽くないか(もっと義務を課したいのであれば、どういう義務を課したいのかを考え、それを明確な言葉で条項にする)等を検討していくことになります。
いずれにせよ一番重要なことは、契約書の内容を理解すること、理解できる契約書にすることです。
書類送検
石崎徹衆議院議員の書類送検のニュースを見て、妻が「書類送検って何?」と聞いてきました。
この書類送検という言葉は、実は司法試験を勉強しても出てこないもので、法律用語ではないのです。
事件が発生した場合、警察官は一定の段階で、事件を検察官に送ります(検察官送致)。
警察は事件を捜査するにあたって、容疑者(これも法律用語ではなく、正確には被疑者といいます)を逮捕する場合もあれば、逮捕しない場合もあるわけですが、逮捕されていない事件について、検察官に送ることを書類送検というわけです。
逮捕されていない、つまり容疑者は通常通りの生活をしており、書類だけを検察官に送ることから書類送検といわれているのです。
そして、送致を受けた検察官は、その事件について、不起訴処分とするかあるいは裁判所に起訴するかを決めます。
逮捕は、容疑者に逃亡の恐れがある場合や証拠隠滅の恐れがある場合にされますが、重大事件の場合には一般的にはこれらの恐れは高いでしょうから、書類送検となっているということは、事件としてはそれほど重大事件ではない(=重い処分にはならない)ということが多いといえます。
とはいえ、逮捕されるか否かは、あくまでも逃亡の恐れや証拠隠滅の恐れがあるかということによりますから、書類送検となったからといって、不起訴処分となるわけではなく、罰金や公判請求(いわゆる裁判)をされることもあります 。
編集後記
契約書さえしっかり作成しておけば、避けられる紛争は多いと思います。
ご相談をお伺いすると、契約条項を読めばご相談されている方が契約違反行為をしていると思われる、事情を聞くと、「この条項は本当はこういう意味だ(と自分は思っている)」「契約書はこうなっているが相手方はそうしなくても良いと(口頭で)言っていた」というものです。
契約書にまつわるトラブルは、一般の感覚からして意味の分かる契約書を作っていないことに起因していると思いますので、普段使われている契約書をよく読まれてない場合には、意味が分かりやすいものであるか、お読み頂きたいと思います。(弁護士 小林 塁)